勝手時空雑記

思ふこと言はでぞただにやみぬべき われとひとしき人しなければ

A commonplace but mystic silhouette in lady profile

f:id:kyn9:20200826200922j:plain

何気ない日常の一コマを描いた一幅の絵画

見知らぬ街を旅する時、ほぼ決まって訪れるのが美術館です。一人旅が多いせいもあり、旅先で長い時間を潰すにはもってこい、との現実的な理由もあるのですが、「ある時代のある風景がそのままの形で残る絵画を静かに眺める時間がたまらなく好きだから」と言ったら、ちょっと格好つけ過ぎですかね(笑)。

 

基本的には風景画が好みです。が、遠くに人影が写る自然な形の人物画も大好きな構図のひとつ。以前のブログでお伝えした「善光寺」の写真などは、正にお気に入りの一枚です(自画自賛、ご容赦のほどを…)。なお、人物の主張が強い自画像はあまり好きではありません。描く人、描かれる人の意志により、ある種恣意的な脚色が施されるから。

 

そんな煩い自身の好みを越えたお気に入りの人物画があります(ポートレートと呼ぶべきでしょうか)。冒頭の写真がそれ。旧東ドイツの北部、Güstrow(ギュストロー)という町に生まれたGeorg Friedrich Kersting(ゲオルク・フリードリッヒ・ケルスティンク)が1823年に描いた、’Junge Frau beim Schein einer Lampe nähend(ランプの灯りで裁縫をする若い女性)’という絵画です。

 

残念ながら彼の生い立ちや画家としての活動について詳しくを知りませんが、この絵画を所蔵する美術館のHPによれば、あまり裕福な家庭に育った人物ではないようです。現存する作品数もそう多くはなく、知る人も少ない画家のひとりでしょう。でも今から数十年前、ドイツ国内のとある美術館で初めて彼の作品を目にした時から、何故かファンになってしまいました。

 

話は飛びますが、1818年、彼はロイヤルザクセン磁器工場(マイセン磁器)の責任者に任命され、人生の最期までをDresden市近郊のMeissen市で過ごしたそうです。当時、工場は技術的な面でも、そして磁器の需要や雇用面においても、深い危機に瀕していたと聞きます。そんな中、きっと彼は絵画で培った技術や才能を糧に、会社の経営状態を立て直そうと尽力したことでしょう。

 

ところで、彼の絵には、何故か横向き、あるいは後ろ姿の女性をモチーフにした作品が多いことをご存知でしょうか。それは女性のSilhouette(輪郭)に神秘性を求めたからなのか、あるいは幼少期の体験か何かが影響しているからなのか…。

 

僕が彼の作品に心惹かれるのは、画中に描かれる人が、その存在を強調し過ぎない独特の構図にあるからなのかもしれません。

 

Meissen市の大聖堂広場には、かつて彼がこの場所に住んでいたことを示す記念プラーク(銘板)が掲げられています。