勝手時空雑記

思ふこと言はでぞただにやみぬべき われとひとしき人しなければ

A white lovely carpet in a sweet nostalgia

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山間の町一面に咲く蕎麦の花

蕎麦の花を見ると、中学生の頃に亡くなった祖父を思い出します。生粋の職人だった祖父は食べものにも自分流のこだわりがあったらしく、毎年新蕎麦の季節になると信州まで足を延ばし、気に入った地粉を手に入れていたようです。しかしながら晩年、腰を悪くしてからはそんな機会もめっきり減り、残念ながら祖父手作りの蕎麦を食した記憶はありません。

 

でも蕎麦って実に不思議な食べ物ですね。目の玉が飛び出るような値段が付いた懐石風の高級品もあれば、僅か数百円で食べられるファストフード的な立ち食い蕎麦もある。旨い蕎麦だけを食べていれば満足というわけでも決してなく、たまに小麦粉の分量が勝るコシのないB級品も食べたくなる(笑)。麺に拘る店もあれば、つゆには絶対の自信を持つ店もある。

 

そして、そんな無数の組み合わせを持った蕎麦を提供する店は市中に数多。でも「これだ!」と思う蕎麦屋に当たることは、おそらく一年に一度あるかないか。そんな店に巡り合ったときは、心の底から嬉しくなってしまいます。その後、定期的に通い続けるのですが、何故かそういう蕎麦屋に限って暖簾を下ろしてしまうことが多い。

 

その昔、川口市内にあった蕎麦屋もそんな店のひとつ。海外からの一時帰国中、ふとした偶然から探し当てた店です。蕎麦自体は勿論のこと、店が暇な時にだけ作ってくれる「蕎麦掻き」が絶品でした。でも、もう二度と食べられない…。ある寒い冬の夜、お会計の際、懇意にしていた店主から告げられた言葉が今でも耳に残っています。「来月で店を畳もうと思う、実家の家業を継がなければならなくなってしまった」。

 

彼の実家は浅草界隈、家業は聞いて知っている。偶然か否か、蕎麦の花言葉は「懐かしい思い出」。今度、訪ねてみようか。

 

未だ知り得ぬ名店との出会いも、きっとどこかにあるだろう。