勝手時空雑記

思ふこと言はでぞただにやみぬべき われとひとしき人しなければ

'Alle geschlossen' during Christmas season

ドイツ版新幹線ICE、最高速度300km/hで欧州大陸を駆け抜ける

僕が初めて欧州を旅したのは80年代後半。当時同じ会社の同じ部門に配属されていたオーストリア好きな友人と共に、年末休暇を利用し、彼の地を訪れた。当時、まだ利用する人も少ない「Eurail Pass(ユーレイルパス)」を片手に、ドイツ、オーストリアリヒテンシュタイン、そしてスイスと、自由気ままな時を過ごした。

 

今思えば、何故真冬の最中、南の島ではなく極寒の欧州を旅しようと思ったのだろう。でも、生まれて初めての欧州ということもあり、出発前から胸は高鳴った。反対に、その友人は既に学生時代から何度となく渡欧しており、実に冷静そのもの。「季節は冬なので、あれを持ってゆけ、これも用意しろ」等々、実に的確、かつ小うるさいアドバイスをもらったものだ(笑)。

 

格安航空券を利用し、可能な限り費用を削った、バックパッカー張りの放浪旅。旅の計画どころか、その日に泊まる宿さえ決めていない。

 

昼前、町に到着したら、先ずはその足でTourist Informationへ。木賃宿の情報を仕入れ、時に窓口の担当者に予約をお願いし、ホテルへチェックイン。荷物を部屋に置いたら、すぐさま当てもなく町を散策。夕方、地元の安レストランで胃袋を満たした後、狭いベッドで一夜を明かす。そして翌朝には次の町へ…。何とも気忙しい、だけど楽しい旅だった。

 

しかしながら、折しも時はクリスマスシーズン。欧州の事情に詳しい方ならば容易に想像出来ると思うが、店という店は全てお休み(Alle geschlossen)。当然、レストランもお休み。そして、とどめはホテルの休業…(これ、小さな町では決して珍しくない)。

 

どこの町かは忘れたが、名前の響きに惹かれ降りた駅に人影は見当たらない。無計画に訪ね歩くホテルは全て休業状態。呼び鈴に応答すら無い(日本では考えられない)。両手に息を吹きかけ、凍える体を震わせながら冷え切った石畳を歩いた記憶は、今も忘れることが出来ない。

 

そんな中、とりわけ記憶の底に強く残っている町がある。名はPassau。オーストリアとの国境に近い、ドイツ・バイエルン州の外れに位置する小さな町である。ドナウ川(Donau)・イン川(Inn)・イルツ川(Ilz)の三河川が合流し、ドイツ語で「Dreiflüssestadt」の別名を持つ町でもある(Dreiは「数字の三」、flüsseは「川の複数形」、そしてstadtは「町」の意)。

 

その町の最東端、鷹の嘴の様な三角洲の先端に立つと、欧州の大河が合流するさまが良く見える。ゆったりとした流れが運ぶ泥や砂の違いか、二つの川の色は微妙に異なり、下流にゆくに従い、徐々に一体化してゆく。少し気取って言えば、異なる民族同士が交じり合い、ひとつの国家を形成してゆく歴史のひとコマのようでもある。

 

それまで、そんな雄大な景色を見たことのない私は、この川の流れを眺め、「ああ、欧州は大陸、複数国家の集合体なのだ」という思いを強くしたものだ。

 

さて、その後も旅は続き、一路オーストリアへ。貧乏旅行ではあるが、葵の御紋が付いた印篭張りの効力を有するEurail Passのお陰で、国際特急の一等車両に乗り放題!地域住民の方々には、おそらくあまり良い印象を与えなかったに違いない。時は日本の高度成長期。バブル経済のピーク。「ああ、Far Eastから来た小金持ちの観光客ね」と…。

 

ウィーンではお上りさんの行動よろしく、SachertorteとMelangeを堪能。それにしても師走のオーストリアは凍てつくほどの寒さだった。欧州大陸は東にゆくほど気温が下がるのだが、ウィーンは当時、西側諸国のFar East。あまりの寒さに10分と続けて街を歩けず、一日券で乗り放題の路面電車で暖を取り、体が温まったらまた外へ。そして10分後、冷えたらまた乗車…(以下くり返し)。市内を巡回する「Ring-kai-ring」は僕の命の恩人だ(笑)。

 

果たして、楽しい時間は「あっ」という間に過ぎ、成田到着。今思えば、あの旅が、後に欧州転勤の打診を受ける僕の背中を押してくれたのかもしれない。

 

当時、ドイツ赴任のチャンスを頂いたとき、何の躊躇いもなく手を上げられたこと。そして、奇しくも赴任の時期がクリスマス休暇真っただ中という最悪のタイミングだったこと(笑)。お約束どおり、そんなときに開いている店は中央駅にしかなく、連日連夜、同じ店で同じ具のサンドウィッチを齧っていたことなど、今となってはいい思い出だ。

 

その後、僕に欧州の楽しさ、奥深さを教えてくれた友人は病に臥せってしまい、何となく疎遠になってしまった。

 

暫く会えていないけど、元気にやっているだろう。今度、メールでも送ってみようか。