勝手時空雑記

思ふこと言はでぞただにやみぬべき われとひとしき人しなければ

An earnest request by a gentle curator (part 3)

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Kさんと電話で話せるのだろうか?(写真と本文は関係ありません)


(Part 2より続き)

「お探しになっているのは、おそらく私の姉だと思います。」何と男性(以後、S氏とします)からは思いもよらない言葉が…。そして驚いている僕に対し、重ねて「先ず、そのドイツ人の方の詳しいお話を聞かせて頂けませんか」と一言。

 

訪問を怪しまれないため、持っている情報の全てを一気に切り出したこともあり、至極当然の要求です。今度は順を追って、これまでの背景・経緯を丁寧にご説明しました。

 

今回の依頼人Mr. JMとは、ドイツのとある美術館で知り合いになったこと。話した印象から受ける彼の人柄や容姿(およその年齢)。依頼が決して興味本位なものではないと思われること。そして、僕自身の自己紹介、勤務先、今回ドイツを旅した理由などについても、名刺をお渡ししながらきちんとお話ししました。

 

さて、暫し僕の拙い説明に耳を傾けた後、S氏は静かに語り始めました。「折角お訪ねして頂いたのに申し訳ないのですが、姉は今、ここにはおりません。」「アメリカに住んでいるらしいんです。」「ちょっと待ってくれ…、住んでいるらしい?」「おかしな話し方をする人だな。」僕がそんな疑問を持ったことは言うまでもありません。

 

すると、その疑問に応えるかのようにS氏は「すっ」と立ち上がり、奥の部屋に消えてゆきました。数分後戻るなり、僕の前に一通のAir Mailを差し出します。手紙の差出人はMr. L。消印・名前から察するに米国人の男性です。便箋にはタイプライターで打刻したと思われる短いメッセージが(以下、その要約です)。

 

1)ここ一か月余り、KさんがS氏に電話しているが、全く応答がない、2)S氏とその家族の無事を心配するKさんの代わりに、私Mr. Lが手紙を書いた、3)もしこの手紙を読んだならば、以下の番号(米国内)に電話をしてほしい。

 

どうやらKさんは、何らかの理由で手紙を書けない状態にあるようです。そして、他にもいろいろとお訊きしたいことが出てきました(以下、その一問一答です)。

 

「このMr. Lという方は?」「Kの旦那です。」「Kさんはずっと電話していたようですが、どうして応答されなかったのですか?」「実は家業を変えた際、電話番号も変わり、それがKに伝わってなかったんです。」「Kさんが手紙を書けない理由に、何か思い当たる節はありますか?」「その昔、まだ電話が繋がった頃、本人から認知症の気があると聞かされたことがあります。」なるほど…、段々と複雑な状況が読めてきました。

 

「この番号に電話してみたんでしょうか?」S氏曰く、「何度か電話してみたのだが、基本応答がなかった」「一度だけ男性が応答したことがあるが、英語だったので何を言っているのかよく分からなかった」とのこと。どうやらそれ以来、電話はかけていない様子です。

 

「ちょっと電話してみませんか?」「今ならば、米国西海岸は昨日の夜の7時頃ですし。」

 

受話器の向こうから米国特有の長めの呼び出し音が聞こえてきます。

(Part 4に続く)