勝手時空雑記

思ふこと言はでぞただにやみぬべき われとひとしき人しなければ

An earnest request by a gentle curator (part 2)

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K県のローカル線、S鮨にほど近い黄昏のホーム

(Part 1より続き)

きっとこれも何かのご縁。人生の一時期、市内に居を構え、公私共々お世話になったドイツです。駄目元で引き受けてみることにしました。

 

後日、彼が持っている情報の全て、そして最も重要な手掛かりとなるであろう(彼女の)手書きの地図をメールで送ってもらうこととし、その日は美術館を後にしました。ちなみに彼の名前はMr. JM、美術館から遠く離れた小さな町に住んでいるとのことです(個人情報保護のため、以降全ての登場人物・地名等は伏字とします)。

 

さて、出張も無事終え、日本に帰国。アドレスに届いているメールの添付ファイルを開いてみます。彼女の名前は「Kさん」。驚いたことに住所は何とお隣、K県です。地図によれば、家の傍らを鉄道が走っているらしい。近くに踏切もあります。更には、彼女の実家は食堂を営んでいた様子。地図上に「S食堂」とアルファベットで書かれていました。

 

「何だ、家から近いじゃないか」「ならば今週末にでも直接現地を訪ねてみるとするか」。行動計画を彼にメールで返信し、その週は仕事に没頭しました。

 

さて土曜日、現地に到着です。それらしき場所に近づいてみると、あっけないくらい容易に「S食堂」は見つかりました。ただし、食堂ではなく「S鮨」となっている。どうやら過去のある時点で、家業を食堂から寿司屋に鞍替えしたようです。外からの気配では、今は営業中ではないご様子。路地に回り、玄関のドアを叩いてみることにしました。

 

暫く待ってみますが、中に人の気配はありません。もう一度叩いてみます。が、やはり音沙汰なし。困っている僕に気が付いたのか、近くにいたお婆さんが声を掛けてくれました。「この家は居間が玄関から離れているので、少しくらいの音では気が付きませんよ」「店の勝手口に回り、そちらを叩いてみてはどうかしら」「強くね!」と…。

 

その教えに従い、店先に回り、豪快に勝手口を叩いてみます。暫くするとドアが開き、中からひとりの男性が現れました。少し強面。さて何と話を切り出したものか…。話し方によっては明らかに怪しい人です(笑)。でも、「どんなことに対しても常に直球勝負」が僕の信条。思い切ってストレートに訪問の経緯・目的を話してみることにしました。

 

「こちらにKさんという70年配のご婦人はご在宅か」「実はある人に頼まれ、人探しをしている」「その人はドイツ人で、昔Kさんと親しかったらしい」「現在の彼女の生活に迷惑はかけないので、出来たら連絡先を教えてほしい」等々。最初「何だコイツは?」という表情をされましたが、暫く話を進めてゆくうちに態度が変わり始めます。

 

「とりあえず中に入ってもらえませんか」。

 

何だか狐につままれたような気分です(?)。

(Part 3に続く)