勝手時空雑記

思ふこと言はでぞただにやみぬべき われとひとしき人しなければ

An earnest request by a gentle curator (part 4)

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60年代初頭、Mr. JMとKさんはこの街で出会ったのだろう


(Part 3より続き)

呼び出し音を聞きながら暫く待ってみましたが応答はありません。米国西海岸は現地時間の夜7時前後。まだ寝ている筈はありません。いったん電話を切り、再度かけ直してみますが、残念ながら状況は変わらず…。長いトーンが空しく耳元で響きます。「あいにくお留守のようですね。」S氏にそう告げ、今日のところはお暇することとしました。

 

S鮨を背に、最寄りの駅へと歩きます。このとき季節は11月、まだ寒くはありませんが、心の中を少しだけ冷たい風が吹き抜けたような気がしました。Kさんの実家は探し当てたものの、肝心の彼女へのコンタクトは叶わぬまま。帰ったらこの事実をメールに起こし、Mr. JMに知らせなければなりません。「何て書こうかな…。」ちょっとだけブルーな気分です。

 

さて、事実を告げたメールを送った数日後、彼から返事が届きました。そこには彼の半生や真摯な願いが整然と綴られていました。

 

60年代、船員としてオーストラリアで働いていたこと。その時、日本との往復便に頻繁に乗船したこと。そんな中、とある港町で彼女に出会ったこと。そして、自分の人生が終わりを告げる前に、もう一度だけでいいから彼女と話がしてみたい、という切実な思いも…。何としてでも彼女を探し当て、連絡先を彼に教えてあげたいとの気持ちが高まったのは言うまでもありません。

 

そんな時、S氏から見せられたAir MailにMr. LのEメールアドレスが記載されていたことをふと思い出しました。「そうだ、電話だけではなく、メールでもコンタクトしてみる価値はあるな。」急いでメール文を認めます。先ずは自己紹介。次に、Kさんの弟であるS氏の代理としてこのメールを送付したこと。そして、連絡が取れないKさんをS氏が心配していることなどを簡潔に記し、送信ボタンをクリックしました。

 

さて、週末の休みも終わり、また慌ただしい一週間が始まりました。仕事が立て込んでいることもあり、探偵活動の日々は暫し記憶の底に沈んでいました。そんなある朝のこと、書斎のデスクに置いた携帯電話が突然振動を始めます。ディスプレーを見るとS氏からの着信です。急いで応答すると、スピーカーから少し慌てたような彼の声が聞こえてきました。

 

「どうしたんですか?」

 

「来たんですよ、電話が…!」

 

どうやら米国から国際電話がかかってきた様子です。

(Part 5へ、いよいよ最終回です!)